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by obsessivision
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霧上がる

彼は本当に癇に障る男だった。
誰かいれば難癖をつけ、絡もうとする。彼の振りかざす小ざかしい理屈も不快の原因だった。甲高い声でヒステリーのように断続的に文句を言い続けられると、それだけで殺意を覚えてしまう。
彼は力も弱く、ただ幼児のごとく気に入らないことをごねるだけだった。その釣りあがった目、坊主が少し伸びたような小さな頭、いつも着ている水色のフリースジャケットと色あせたジーンズ。

その日も食堂で彼はわめいていた。食堂は休日で休みだというのに、閉じられた厨房に向かってその苛立ちを隠せないでいた。
私はただそこに居合わせたというだけで難癖を付けられたのだ。ただでさえ雨の日が続くというのに、うっとうしい奴が寄ってくるのには我慢がならなかった。
しかし今日は何か勝手が違っていた。

彼は言う。「何で開いてないんだよ!」
「いや、だから休日だから」
「休日だって関係ないよ。今日は金曜日だって思ってたんだよ。おなか減らしてきたのに、なんで、今日は、食堂が、開いてないの?! 君だって教えてくれれば良いのに!」
この筋の通らない言いがかりは本当に腹が立つ。腹の中でうごめく怒りをもてあましていると、脇から友人の下村がやってきた。「どけ」

彼は激昂した。「ぼくが話してるんだ!邪魔しないでよ。何?君もグルなの?大体いつもいつも何でそんなにえらそうなんだよ。早く厨房開けてよ!人間の基本的人権を踏みにじるつもりなんだろ?!」
下村は音もなく彼の肩を掴むと、もう一方の大きい拳を彼のみぞおちに叩き込んだ。

彼はなす術もなく床に倒れこんだ。くずおれて横に倒れ、胃液が彼の口から流れ出た。少しの間息をしながら身震いしていたが、今は胎児のように体を丸め、死んだように動かない。
本当に死んだのだろうか。少し心配になって上から覗き込むと、そのやせ細った雛の死骸のようなシルエットから、彼の足が突き出し、私が座っていた椅子の足を苛立たしげに蹴った。

安心と呆れから興味を失った私は、食堂を出た。雨はやんでいたが、まだ濃厚な湿気が廊下に漂っている。ふと振り返ると、学生活動家の友人2人が彼を運んでいた。彼の細長く突き出た足がブラブラと揺れて運ばれているのを見ると、どうにも笑いをこらえられなかった。

友人2人は彼を中庭の椅子にもたせかけた。ぐったりとした姿は体を動かすことすら億劫だといわんばかりに、力なく椅子に体を預けた。
夜に雨がまた降るようだ。
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by obsessivision | 2006-05-12 16:44